あかなまの"想い出づくり"

はてなブックマークで書いたコメントの余談と補足と自分語り。

ゴミ屋敷の住人

 

ゴミ屋敷の住人と3年以上関わって『ゴミを捨てない理由』をやっと聞き出せた→正しさについて考えさせられる - Togetter

こういう理由ももちろんあるんだろうが、私が話を聞いたゴミ屋敷の住人は「ゴミと思ってない」ケースだった。菓子パンの袋やカップラの丼とか煙草のシケモクとか、すべて想い出の品で棄てられないんだって。

2019/11/27 15:09

 

思い出したので書く。

 

以前、近所の安い居酒屋のカウンターで夕ご飯を食べていた時、歯がない割に声の大きいお爺さんが隣の座席に座った。
今の時間帯はハッピータイムでビールとサワーが安い。
じじいは歯がない割に大きな声でレモンサワーを頼んでいた。
そしてお通しの鳥の煮込みをアテに届いたレモンサワーを少しだけ飲むと「…美味いね」とつぶやいた。
じじいはずっと煮込みを凝視しながら少しづつレモンサワーを飲んでいた。

 

どんな内容だったが忘れたが、ふと私が店員さんと話した時に、隣でその会話を聞いていたじじいが「ふふん」と笑って、それがきっかけでじじいと少し話すようになった。
特に聞いてもいないのだがじじいは、歯がない割に大きな声で「俺はかつて偉かった」的な話を機嫌よくしていた。

 

「あそこの熱帯魚屋の隣に住んでんだよ」とじじいが言った。
熱帯魚屋の隣の家は近所で有名なゴミ屋敷だ。
「あの物がたくさん置いてある家ですか?」と聞くと「そうだ。あそこに住んでんだ」とじじいが答えた。
「なるほど、この人があの家に…。」と、内心思った。

 

「あなたの家にはなぜ物があふれているのか」と聞くと、じじいは「あれは全部大切な想い出の品だ」という。
じじいは“大切な想い出の品”と言うが、私から見ると、まさしくゴミ。ペットボトルとかインスタントラーメンのカップとかだ。
おひとりで暮らしているんですか?と聞くと、息子が一人いるがあまり折り合いが良くなく、あの家には今は独りで住んでいると言う。
想い出の品はいつから集めているんですか?と聞くと、憶えていないと言う。
あれ全部に想い出があるんですか?と聞くと、1つ1つのエピソードは憶えていないが、きっと大切なものだったはずだと言った。
そういうものなのか…。

 

帰り際、じゃあ今日の想い出に、と私がたまたま持っていたリラックマのキーチェーンを渡すと、じじいは「くれるの?ああそう」と言ってポケットにしまった。
あのリラックマは、じじいの家のどこかに“大切な想い出の品”として仕舞われたんだろうか。

 


それから何日かして、じじいと道でばったりあったとき、私は会釈をしたけど、じじいは私のことが判らないようだった。
もしかしたら、じじいは自分で想い出を憶えておくことができないから物を大切に集めているのかな、と、その時なんとく思った。

 

それからさらにしばらくしたあるとき、じじいの家は行政かなんかの手が入り、3日ぐらいかけて庭から家からあらゆる物が撤去され、すっかり綺麗になった。
それからじじいの姿を見なくなって、じじいの家もそのうち売り物件になっていた。

 

 

蔦からまるQの惑星

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