あかなまの"想い出づくり"

はてなブックマークで書いたコメントの余談と補足と自分語り。

遊び半分で裁判を傍聴しに行って、浅はかな自分を後悔して暗い気持ちになった話

 

”殺人犯”を見たくて裁判に行ったら、びっくりするくらい”普通のおじさん”で殺人者に対する考えが変わった話 - Togetter

ほんと、裁判の傍聴はぜひ一度見に行った方がいい。犯罪者は必ずしも特別な存在じゃない。自分もその延長線上にあるかもしれないと考えさせられる。

2019/02/03 15:20

 

学生の頃、ほんとにゲスなしょうもない理由で裁判を傍聴しに行ったことがある。

仲良かった友達と二人で。犯罪者をタダで見られるなんて面白いじゃーん、くらいの感覚で。

 

入り口で今日のスケジュールをチェックして、めぼしい公判を探す。友達と「初めてだし、まずは何でもいいよねー」とか「高裁より地裁の方がダイナミックらしいよー」とか言いながら、時間が合う公判を見に行くことにした。

 

最初に傍聴したのは、イラン人の大麻売買の公判だった。被告人は日本語が話せないらしくて、常に通訳を介したやりとりで時間がかかる。それでも初めて見る裁判は刺激的で、日常の生活では絶対踏み込まないヒリヒリしたやりとりが見られた。

 

「乾燥大麻と知らずに売っていました。」

「自分が何か解らないものを売ってたんですか?」

「その通りです。」

「ふぅん。…質問を終わります。」

 

被告人が絶対突っ込まれたくないことを突っ込んで、何か言いたげに「ふぅん。」で締める。「(よくそんな嘘つけんな)」っていうニュアンスが言外に含まれる。言いにくいことを面と向かった人同士が皆の見てる前で言い合う。これがリアルの裁判かー。

 

初めて見た公判が終わり「今度はテンポがいい日本人がいいね」と次の公判を探す。

するとちょうどいいタイミングで始まる強姦事件を発見。これはゴリゴリの悪人が出てくるに違いない。次はこれにしよう。

 

そうして向かった次の公判。先程の事件よりも明らかに傍聴人が多い。席を見つけて着席。強姦犯って酒飲んで暴れた茶髪のサーファーかなー♪ぐらいの感覚。

 

裁判長に促されて入廷してきた犯人は、とんでもなくショボくれて気の弱そうな50代くらいの冴えないおっさんだった。

「えっ!?」ってなった。

「こんな人が強姦?」ってなった。

固唾を飲んで冒頭陳述?を聞く。

 

被告人は障がい者施設で働く用務員だった。そして被害者は精神障がいのある施設の入所者だった。

 

思ってたのと違う。なんか妙にショック。強姦ってもっとアンモラルな場所で起こるもの、と漠然と思ってた。

 

傍聴席には、心なしか被告人を睨むように見つめる集団がいる。

(施設の関係者だろうか)

(もしかしたら被害者の親族かもしれない)

 

被告人は消え入るような声で

「…間違いありません…」

「…申し訳ありませんでした…」

と繰り返す。

 

ああ…気が重い。どうして自分はここに居るんだろう。

とんでもなくピリピリした空気。法廷が色の無いモノクロに見える。

 

被告人は公判中、ずっと小さな声で謝っていた。

被告人のその姿しか知らない自分は、とても強姦なんてするような人に見えなかった。それがとても怖かった。

 

なにも知らなかった。こんなことが起こりうる現実を。自分はなんだかとっても甘かった。

 

どっしりと疲れて帰る銀座線。

友達と二人で、世の中のリアルを一生懸命咀嚼して飲み込もうとしながら帰った19歳の冬だった。

 

 

裁く眼 (文春文庫)

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